東京地方裁判所 平成11年(ヨ)21273号 判決
債権者 A
債権者 B
債権者 C
右債権者三名代理人弁護士 中丸素明
同 小林幸也
債務者 労働大学
右代表者理事長 中小路清雄
右代理人弁護士 北川鑑一
主文
一 債務者は、債権者Aに対し、平成一二年五月から平成一三年四月まで毎月二五日限り金二三万円を仮に支払え。
二 債務者は、債権者Bに対し、平成一二年五月から平成一三年四月まで毎月二五日限り金二三万円を仮に支払え。
三 債権者Cの申立てを却下する。
四 申立費用は、債権者Cに生じた費用の全部及び債務者の生じた費用の三分の一については債権者Cの負担とし、債権者Aに生じた費用の全部、債権者Bに生じた費用の全部及び債務者に生じた費用の三分の二については債務者の負担とする。
理由
第一申立て
一 債権者らが債務者に対し労働契約上の地位を有することを仮に定める。
二 債務者は、債権者らに対し、平成一二年一月以降本案判決の確定に至るまで毎月二五日限り別紙請求債権目録記載の各金員を仮に支払え。
第二事案の概要
一 本件は、債務者に雇用されていた債権者らが、債務者に人員整理を目的として解雇されたとして、債務者に対し債務者の従業員としての地位を有することの仮の確認及び賃金(平成一二年一月から本案判決確定まで毎月二五日限り別紙請求債権目録記載の各金員)の仮払いを求める事案である。
二 前提となる事実
1 債務者は、昭和二九年一〇月一一日に日本社会党(左派)の党学校として党員教育を目的として発足し、昭和三〇年に左右社会党が統一したのを契機に党の外郭団体として労働組合の活動家、青年労働者を対象とした教育機関としての活動を開始し、昭和三五年に月刊「まなぶ」誌を発刊し、昭和四二年には労働大学調査研究所が発足し、「月刊労働組合」誌を発刊するに至った。債務者の定款には「労働運動の強化、ならびに勤労者大衆に科学的社会主義思想の教育とその普及をはかるために労働者教育事業を行うこと」を債務者の目的とすることが定められており、この目的を達成するために月刊「まなぶ」誌、「月刊労働組合」誌の発刊、販売活動をはじめ、各種出版物の発行・販売、教育・学習運動への援助、講座の開設等の事業を行っている(争いがない。)。
2 債権者A(以下「A」という。)は昭和四九年一〇月に労働大学に入局した。債権者B(以下「B」という。)は昭和五三年九月一日に労働大学に入局した。債権者C(以下「C」という。)は昭和五五年一二月に労働大学に入局した(争いがない。)。
3 債務者には、債務者の職員らで構成する労働組合として労働大学職員労働組合(以下「職員組合」という。)と労働大学労働組合(以下「本件組合」という。)があり、本件組合の組合員は現在六名である。債権者Aは本件組合の執行委員であり、債権者Bは本件組合の書記長であり、債権者Cは本件組合の副委員長である(争いがない。)。
4 債務者は、平成一一年一一月二五日、債権者らに対し、債務者の就業規則二六条(4) に基づき同月二九日をもって債権者らを解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)(争いがない。)。
5 債務者の就業規則には、次のような定めがある(甲五)。
(一) 第二三条(退職事由)
職員が次の各号の一に該当するときは、次の定める日をもって退職とする。
(1) 定年に達したとき 定年に達した日
(2) 及び(3) 省略
(4) 休職期間が満了したとき 休職期間満了の日
(5) 以下 省略
(二) 第二四条(定年)
職員の定年は、満六〇歳になった日の属する月末をもって退職とする。
2及び3 省略
(三) 第二六条(解雇事由)
職員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
(1) ないし(3) 省略
(4) 事業を廃止・縮小するなど、止むを得ない事業上の都合によるとき
(5) 省略
6 債権者Aの基本給(所得税、社会保険料等を控除する前の金額)は、平成一一年九月分が二三万一八二一円、同年一〇月分が二二万七三二三円、同年一一月分が二四万円で、三か月の平均は二三万三〇四八円であり(甲一一、一二、一四、)、債権者Bの基本給(所得税、社会保険料等を控除する前の金額)は、平成一一年九月分ないし同年一一月分がそれぞれ二三万一〇〇〇円で、三か月の平均は二三万一〇〇〇円であり(甲一五ないし一七)、債権者Cの基本給(所得税、社会保険料等を控除する前の金額)は、平成一一年九月分ないし同年一一月分がそれぞれ二三万六二〇〇円で、三か月の平均は二三万六二〇〇円である(甲一八、一九、二一)。債権者らの賃金は毎月二〇日締切り二五日払いである(審尋の全趣旨)。
三 争点
1 被保全権利について
本件解雇は有効か。
(一) 債務者の主張
(1) 人員削減の必要性
債務者らは、その発刊に係る雑誌の売上げが収入の六割ないし八割を占めているところ、平成一〇年度以降月刊「まなぶ」誌が二万部から一万五〇〇〇部に減部したこと等により毎月二〇〇万円が不足するという状況にあるため、債務者としては一七名もの事務局職員を確保することは到底不可能である。
債権者らは、債務者は八〇〇〇万円もの純資産を保有していると主張する。しかし、この八〇〇〇万円の純資産には雑誌代の未納分及び雑誌の在庫分が含まれており、前者は回収の見込みのない不良債権であり、後者は販売の見込みが乏しい商品であり、結局のところ、純資産のうち運転資金に充当できるのは約二〇〇〇万円である。
債権者らは、平成一〇年度の当期純損益は平成九年度の当期純損益と比較して半減しているから、債務者の経営状況は、赤字経営が続いているとはいえ、好転していると主張する。しかし、これは債務者による経費削減努力の結果としての一時的な効果にすぎず、定期購読者数を増加させない限り、経営状況の好転にはつながらない。
債権者らは、債務者が平成七年度と平成九年度に一名ずつ新規採用を行ったと主張するが、これは雑誌発行上不可欠の措置である。
債権者らは、債務者の経営基盤である支局体制を廃止、縮小しようとするもので、事業再建という目的に逆行するものであると主張する。しかし、債務者は、機能不全に陥っている組織の活性化を目的として現在の支局体制の廃止、縮小を実施したのであって、前記のような債務者の経営状況に照らせば、収入の一〇倍もの経費を要する現在の支局体制について抜本的な解決が必要であることは明らかである。
(2) 解雇回避努力
債務者は当初一七名いた事務局職員を一〇名削減して七名にする予定であったが、これを八名削減して九名にすることに変更し、最終的には七名削減して一〇名にすることに変更したのであって、このように債務者は解雇回避努力を怠っていない。
債務者は、新商品の販売、講座・シンポジウムの開催、ダイレクトメールによる拡販、見本誌の提供等、積極的な売上げの増大の努力も払っている。
債務者においては支局体制等を整備、拡充し、読者層等との連携をより密にしていくことが必要不可欠であるが、事務局職員の削減という今回の措置もそれを目的としたものである。
(3) 人選基準の合理性
債務者は、第一に支局運営体制を変更して、支局の専従員を廃止し、支局運営委員会による運営を行うこととし、北信越支局長、関西支局長(事務局次長と兼務で関西支局に常駐)、関西支局職員、中国支局長、四国支局職員、関東支局長(嘱託職員)及び関東支局職員の七名に退職(債務者では退職を「戦線移行」と呼んでいるが、この決定書では退職と呼ぶこととする。)を提案することになった。第二に、経費削減として広告・発送業務を外部委託することとし、広告・発送業務に従事していたのが債権者A及び債権者Bであった。
以上のとおり、事務局職員の削減という今回の措置において債務者が退職を提案したのは九名であったが、その後の交渉により七名となった。退職の対象から外れた二名はいずれも本件組合員であった。また、七名のうち四名は職員組合の組合員である。
(4) 解雇手続の妥当性
債務者と本件組合との団体交渉は九回にわたり行われ、事務局職員の削減という今回の措置についても十分説明している。
(5) 以上の次第で、本件解雇が有効であることは明らかである。
(二) 債権者らの主張
(1) 人員削減の必要性
ア 整理解雇は専ら使用者側の事情によって労働者の職を奪うものであるから、厳格な要件が求められるのは当然であり、人員削減の必要性についても厳格に判断されるべきであることは判例上も明らかである。
そして、債務者の目的である「労働運動の強化、ならびに勤労者大衆に科学的社会主義思想の教育とその普及をはかるために労働者教育事業を行うこと」に照らせば、解雇は労働運動を弱体化させるもので本来的に債務者の事業目的に反する施策であって、そうである以上、債務者にあっては、解雇はそれを行わなければ事業の破綻が必至であるという場合に、その事業の破綻を避ける最小限の範囲で行わなければならない。
イ 債務者が人員削減をしなければならないような客観的経営状況にないことは、債務者の引用に係る債権者らの主張の外、平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会は満場一致をもって会員から拠出された会費約二四〇〇万円を会員に返還しないことを決定したのであって、これにより約二四〇〇万円が債務者に使用可能な資金となり、債務者の経営状況ははるかに好転したこと、平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会における監査報告によれば、純資産のうち不良債権化しつつある資産は一三九四万九二七八円と報告されており、配本してから代金が回収できるまでの売掛金四四〇〇万円は運転資金として使えないから、常時運転資金として使えるのは二一〇〇万円余りであるとされているが、右の四四〇〇万円は三か月分の印刷代に相当する金員であり、要するに、三か月間雑誌代が入らなくとも印刷代を支払えるようにするために留保している分ということになるが、雑誌の収入は毎月一〇〇〇万円以上はあるのであって、そうすると、運転資金として常時使用することができるのが二一〇〇万円余りということにはならないこと、債務者にとって、支局体制を確立、維持することは、労働組合や出版物の読者層との連携強化に欠かせないのであって、労働組合や読者との密な交流があってこそ、出版物の売上部数を維持し、未収金を減らすことができるのであり、したがって、債務者において支局体制を瓦解させるような人員削減を実現することは愚策以外の何ものでもないこと、事務局職員の削減という措置を行うに当たって退職に同意した者が四名いるが、この四名の退職によって毎月一〇〇万円の経費を節減することができるものと考えられるところ、債務者の監査報告によれば、平成一〇年度の当期純損益は一二五三万八一三八円であるから、四名の退職によって平成一〇年度の当期純損益程度の損益を削減できることとなったのであるから、さらに重ねて債権者ら三名について本件解雇に及ぶ必要はないというべきであること、以上の点から明らかである。
(2) 解雇回避努力
債務者は事務局職員の削減予定者数を減らしたと主張するが、そのうち一名は平成一二年一月末に定年退職する者であり、一名は病気休暇中で賃金を支払っていない者であるから、事務局職員の削減予定者数を減らしたことが解雇回避努力を尽くしたことにはならないというべきである。
債務者が解雇回避努力として主張するその余の点については経費削減のための初歩的な方策であった、これらの策を講じたのみでは解雇回避努力を尽くしたと評価することはできない。
債務者が解雇回避努力を尽くしたかどうかについて検討する余地があるのは希望退職の募集のみであるが、債務者は口頭による応募者がいたにもかかわらず、これを受理しなかった。しかし、債務者がこれを受理していれば、本件解雇に及ぶ必要はなかったのであり、債務者が解雇回避努力を尽くしたとはいえない。
(3) 人選基準の合理性
ア 債務者は事務局職員に対し平成一一年六月一日付けの「労働大学事務局職員の配置について」という書面を交付したが、その際に本件組合員六名を含む一〇名に対しては「各人ごとの処遇を記載した書面」も併せて交付したというのであり、債務者は事務局職員の数を一七名から七名に削減しようとしていたことからすれば、右の一〇名は指名解雇の対象者であったということになる。この一〇名に本件組合員六名全員が含まれているのは、債務者が債権者らが加入していた「三池研」と本件組合を嫌悪し、徹底してこれを排除しようとする堅固な意思の表れであることは明らかである。
イ 債務者の主張に係る人選基準の第一に挙げる支局運営体制の変更に伴う支局専従員の人員整理は、そもそも支局から専従員全員を廃止するという施策自体が誤っており、本件組合の組合員が支局運営を機能不全に陥れたという虚構を構築して従来から敵視していた本件組合の組合員を切り捨てようとしたのであって、その上、債務者の主張によると、支局専従員のうち四名については債務者を退職した後も何らかの形で債務者の業務にかかわっていくのに対し、本件組合員について言えば、債権者Cが解雇、福本道春(以下「福本」という。)が病気休職中で無給であり、一年六か月が経過して復職できなければ自動的に解雇、向坂浩史(以下「向坂」という。)は平成一二年一月に定年退職の予定であり、嘱託として再雇用される予定はなかったのであり、明らかに差別的な取扱いである。
ウ 債務者は、事務局職員の削減という今回の措置において支局においては職員組合の四名は債務者の専従員という身分を喪失したと主張するが、右の四名は支局運営委員会の一員としての任に就いている。また、債務者は、右の職員組合の組合員である四名は債務者の専従員という身分喪失後は無給であると主張しているが、支局体制の変更後は職員の平均人件費の二分の一相当額を交付し又は月五万円を限度に運営費として交付しているのであって、無給とはいえない。
なお、債務者は、職員組合の四名のうち嘱託職員であった一名を除いたその余の三名については退職ではなく解雇したと主張しているが、右の三名にも「各人ごとの処遇を記載した書面」が交付されており、その内容は本件組合の組合員に交付されたものと同じ内容というのであるから、右の三名が退職したことは明らかであって、解雇されたはずがない。仮に真実解雇されたとしても、それは雇用保険上の便宜を図り、かつ、組合員間の差別を隠ぺいする目的で外形的に装ったにすぎない。
エ 債務者の主張に係る人選基準の第一に挙げる本部の事務局職員の人員整理は、本件組合の組合員三名を合理化の対象として指名し、職員組合の組合員である七名を当初から合理化の対象から除外しており、これほど露骨な差別、選別はない。しかも、本部事務局には事務局長一名、事務局次長二名、総務部長、総務部次長等がおり、広告・発送担当者のみを人員削減の対象とする必然性はないこと、債権者Aが広告業務を担当していたのは数年程度にすぎず、債権者Bが発送業務のみを担当するよう命じられたのは平成一一年六月からであり、債務者は業務配転の申入れを一切行わずに本件解雇を強行したこと、債権者A及び債権者Bの発送業務はいずれも債務者の仕事差別として強要されたものであること、債務者は本部事務局に在籍する本件組合の組合員である前田啓一郎(以下「前田」という。)に対しても退職等を迫っているが、債務者はその理由を一切説明できないでいること、以上の点を総合すれば、本件解雇の理由がつじつま合わせの空疎なものにすぎないことは明らかである。
(4) 解雇手続の妥当性
債務者と本件組合との間の団体交渉は九回を数えるが、初めの数回は債務者が本件組合と職員組合との清算問題を持ち出すなど、債務者は意図的に本題である合理化問題の交渉に入るのを妨げてきた。合理化問題を話し合う上で必要不可欠である財政資料を債務者が提出してきたのは平成一一年九月二七日に開かれた第七回団体交渉の後であり、債務者が財政問題について答えたのは同年一〇月二六日に開かれた第八回団体交渉と同年一一月一二日に開かれた第九回団体交渉においてだけであり、しかも、債務者は第九回団体交渉を途中で打ち切ってしまったのであり、団体交渉の中で明らかにされた財政問題はあいまいなものにすぎなかった。事務局の職員一七名のうち一〇名を削減するという大規模な人員削減を実行しようとするにもかかわらず、財政資料を示さずにいたずらに一〇名の削減のみを主張していたのであって、このような債務者の対応が債権者らの真剣な団交要求に応えるものでないことは明らかである。
(5) 以上によれば、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。
2 保全の必要性について
第三争点に対する判断
一 被保全権利について
1 前記第二の二5の事実、次に掲げる争いのない事実、疎明資料(甲八ないし一〇、二三ないし二七、三六、三九、四三ないし四六、四八、五四、五五の1及び2、五六の1及び2、五七ないし六〇、乙一、三、五の2ないし11)及び審尋の全趣旨によれば、一応、次の事実が認められる。
(一) 債務者の収入においては月刊「まなぶ」誌及び「月刊労働組合」誌の売上げがおおむね六割ないし八割程度を占めてきた(争いがない。)。
(二) ところが、労働組合運動の停滞に伴って、月刊「まなぶ」誌及び「月刊労慟組合」誌の発行部数は昭和五三年を境に減部を重ねるようになったが、債務者の内部においては経営の立て直しと運営方針を巡って意見の対立が生じ、債務者と「まなぶ友の会」の一体化の推進及び「まなぶ友の会」に依拠して財政再建を達成することを主張する「三池研」が結成された。債権者らはいずれも「三池研」の構成メンバーであった(債権者らが「三池研」の構成メンバーであったことについては甲八ないし一〇、審尋の全趣旨。その余は争いがない。)。
(三) 債務者は平成二年七月労働大学再建総会を開き、定款を定め、理事長を中心とする理事会によって債務者の運営全般の執行に当たるという体制が導入された。理事会は労働大学の財政再建を標ぼうし、平成四年四月には賃金規程を変更し、事務局職員で約三〇パーセントの賃金の減額、各支局に対し在籍する支局職員の数にかかわりなく一律二〇万円の交付金を支給して賃金に充てるという措置を執った。また、債務者は月刊「まなぶ」誌の入金率による賃金の変動制を導入した(争いがない。)。
(四) 債務者は人員の削減を推し進め、平成六年までに二〇数名の職員が退職などした。その結果、本件解雇前の事務局の体制は、次のとおりであった(争いがない。)。
(1) 本部
ア 事務局長(一名)
イ 事務局次長(二名‥うち一名は関西支局で勤務)
ウ 総務部長(一名)
エ 総務部次長(一名)
オ 総務部員(二名‥債権者B、前田)
カ まなぶ編集部(一名)
キ 調査研究所(二名)
ク 事務局長付(一名‥債権者A)
(2) 北信越支局長(一名)
(3) 関西支局(一名‥向坂)
(4) 中国支局長(一名)
(5) 四国支局(一名‥債権者C)
(6) 関東支局(一名‥福本)
(7) 関東支局長(一名‥嘱託職員)
(五) 債務者は平成八年三月に当時の全職員約二〇名の約三分の二を占める役職者に対し一律一八万円の役職手当を支給した。債務者は平成七年度と平成九年度にそれぞれ一名の新規採用を行った(争いがない。)。
(六) 月刊「まなぶ」誌及び「月刊労働組合」誌の発行部数は、債務者の活動を安定的に全国で取り組むために必要な発行部数を下回ったままさらに減部を重ねていたことから、債務者は平成一〇年度にこの発行部数の回復を目指して種々の取組を行ったが、減部の傾向を逆転させることはできなかった。そこで、理事会は事務局の体制を現実の発行部数による収入に見合ったものにすることを決めた(甲二六、四八、乙一、三)。
(七) 理事会から平成一一年二月二六日付けの「事務局職員の集い」招集が通達第一号として発させられ、同年三月三日「事務局職員の集い」が開かれた。理事会は、この「事務局職員の集い」において、別紙通達第二号のうち「一九九九年四月からの職員の枠に関する理事会の議」の部分に記載された提案をした(「事務局職員の集い」における理事会の提案の内容については甲二四。その余は争いがない。)。
(八) 理事会は平成一一年三月二九日に希望退職について事情聴取を行った。しかし、(七)の提案に係る一か月という期間内に希望退職者は現れなかった(審尋の全趣旨)。
(九) 事務局長は平成一一年四月一五日事務局職員から定数問題について意見を聴取した上で、理事会に対し定数を一一名から七名に削減したいという提案をした(争いがない。)。
(一〇) 理事長及び事務局長は平成一一年五月二一日事務局職員に対し個別に「労慟大学事務局職員の配置について」と題する書面を示した。「労働大学事務局職員の配置について」と題する書面の内容は別紙のとおりである。この当時支局運営委員会が置かれていたのは北海道支局、東北支局及び九州支局であり、この当時支局運営委員会の設置の動きがあったのは北信越支局、中国支局及び四国支局であった(「労働大学事務局職員の配置について」と題する書面の内容については甲二五。支局運営委員会の設置状況等については甲二六。その余は争いがない。)。
(一一) 債務者の総会が平成一一年五月二二日に開かれ、人員削減を含む財政方針案を満場一致で承認した(争いがない。)。
(一二) 債務者は(一一)の総会での承認に基づいて平成一一年六月一日付けの一九九九年度通達第一号「労働大学事務局職員の配置について」と題する書面を支局職員を含む事務局職員に交付し、同意書の提出を求めた。「労働大学事務局職員の配置について」と題する書面の内容は別紙のとおりである。また、債務者は事務局職員のうち支局職員全員(債権者Cを含む七名)及び事務局職員のうち債権者A、債権者B及び前田に対し「各人ごとの処遇を記載した書面」も併せて交付した。「各人ごとの処遇を記載した書面」には前田を除くその余の九名については退職を勧奨する旨の記載があった(債務者が事務局職員に対し「労働大学事務局職員の配置について」と題する書面を交付したことについては争いがない。その余については甲五四、五五の1及び2、五六の1及び2、五七ないし六〇、審尋の全趣旨)。
(一三) 債権者らは平成一一年六月二日債務者に対し本件組合を結成したことを通告するとともに団体交渉の開催を求めた(争いがない。)。
(一四) 本件組合と債務者は平成一一年六月一〇日第一回団体交渉を開催し、本件組合の組合員である債権者ら、向坂、前田及び福本はその席上で提出を求められた同意書に代えて不同意書を提出した。しかし、事務局職員一七名のうち債権者ら、向坂、前田及び福本を除くその余の一一名は同月一〇日までに同意書を提出した。これによって支局職員のうち四名は退職勧奨に応じて退職することになったが、この四名が退職したのは債権者らが解雇されたのと同じ日付けであった(債権者ら、向坂、前田及び福本から平成一一年六月一〇日に不同意書が提出されたことは争いがない。その余は、甲二三、乙五の2ないし11、審尋の全趣旨)。
(一五) 本件組合と債務者は平成一一年七月二日第三回団体交渉を開催し、債務者はその席上で人員削減案を撤回するつもりはないと答えた(平成一一年七月二日に開催された団体交渉が三回目であることは甲二三。その余は争いがない。)。
(一六) 本件組合と債務者は平成一一年九月六日第五回団体交渉を開催し、債務者はその席上で(一二)の「労働大学事務局職員の配置について」と題する書面と同趣旨の提案を行った(甲二三、審尋の全趣旨)。
(一七) 本件組合と債務者は平成一一年九月二七日第七回団体交渉を開催し、本件組合は財政資料の提出を求め、その後債務者は財政資料を本件組合に交付した(甲二三、三六、審尋の全趣旨)。
(一八) 本件組合と債務者は平成一一年一〇月二六日第八回団体交渉を開催し、本件組合はその席上で財政資料について説明を求め、債務者はその席上でこれを説明した(甲二三、審尋の全趣旨)。
(一九) 債務者は(一八)の席上で人員削減後の事務局職員数を七名から九名に増やすことにしたと説明した。これによって支局職員のうち二名(向坂及び福本)は退職勧奨の対象から外れることになったが、向坂は平成一二年一月に定年により退職する予定であり、福本は病気休職中であり、賃金は支払われておらず、休職期間が満了すれば退職と扱われる予定である(債務者が(一八)の席上で前記のとおり説明したことは争いがない。その余は前記第二の二5、審尋の全趣旨)。
(二〇) 本件組合と債務者は平成一一年一一月一二日第九回団体交渉を開催したが、両者の話合いは物別れに終わった(甲二三、四三ないし四六、審尋の全趣旨)。
(二一) 債務者の平成一〇年度の資産は一億二三七五万三〇二四円であり、未払金等の負債四四一五万〇〇七七円を差し引いた当期未処分損益は七九六〇万二九四七円であるが、この中には不良債権化しつつある一三九四万九二七八円が含まれているから、処分可能な純資産は六五六五万三六六九円ということになる。債務者は、このうち配本してから代金が回収できるまでの間の売掛金四四〇〇万円余りを留保しておくとすると、常時運転資金として使えるのは二一〇〇万円余りであると考えていた(甲二七、三九)。
(二二) 債務者の平成一〇年度の収支決算及び業務について会計・業務監査を行った監査は、労働大学を存続させるとしたら、月刊「まなぶ」誌及び「月刊労働組合」誌等の飛躍的拡大か、一時財政上の出費を減らすかのいずれかの方法しかなく、これまで前者の方法を追求してきたが、はかばかしい結果は得られていない現状からすれば、後者の方法を選択せざるを得ず、その場合に人件費を半減する方法も考えられるが、それでは余人をもって代え難い人材の流失を招く懸念があることなどから、理事会が今回決定した施策は妥当なものと考えるという意見を提出している(甲二七)。
(二三) 平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会は満場一致をもって会員から拠出された会費約二四〇〇万円を会員に返還しないことを決定した(審尋の全趣旨)。
(二四) 債務者の平成一〇年度の当期純損益は一二五三万八一三四円である(甲三四)。
2 以上の事実を前提に、本件解雇の有効性について検討する。
(一) 債務者は、本件解雇は就業規則二六条(4) に基づいて行ったものであると主張しており、就業規則二六条(4) は「事業を廃止・縮小するなど、止むを得ない事業上の都合によるとき」というものであるから、本件解雇の理由は「事業を廃止・縮小するなど、止むを得ない事業上の都合によるとき」に当たるということになる。そうすると、本件解雇について就業規則二六条(4) に基づいて解雇権が発生しているといえるためには、第一に、本件解雇が「事業を廃止・縮小するなど、(中略)事業上の都合による」こと、すなわち、解雇という手段によって余剰人員を削減する経営上の必要性が債務者に存することが必要であり、第二に、解雇という手段に出ることが「止むを得ない」こと、すなわち、目的と手段ないし結果との間の均衡を失していないことが必要であると解される。
そして、債務者は、本件解雇の理由が「事業を廃止・縮小するなど、止むを得ない事業上の都合によるとき」に当たることを明らかにする趣旨で、本件解雇の理由として、債務者の経営が極めて困難な状況にあること、債務者の経営を立て直すためには経費削減のための方策として余剰人員削減という方法を採らざるを得なかったこと、債務者は余剰人員削減の対象者の選定基準として支局職員については全員(債権者Cを含む七名)を解雇の対象とし、支局職員を除いたその余の事務局職員については広告・発送業務の外注化に伴いこれらの業務を担当する事務局職員(債権者A及び債権者B)を解雇の対象とすることにし、これに債権者らを含む九名が該当したこと、債務者は債権者らを含む九名に退職を勧奨したが、支局職員のうち二名については退職勧奨を撤回し、残りの五名のうち債権者Cを除くその余の支局職員が退職勧奨に応じたので、退職勧奨に応じなかった債権者らについて本件解雇に及んだことなどを主張している。
(二) 人員削減の必要性について
(1) 余剰人員の削減を目的とした解雇においておよそ余剰人員の削減の経営上の必要性があると認められなければ、当該解雇に合理性があるということはできないのであり、その場合には当該解雇は権利の濫用として無効であるというべきである。
そこで、余剰人員の削減を目的とした本件解雇において余剰人員の削減の経営上の必要性があると認められるかどうかについて判断する。
本件においては、債務者の収入においてその売上げがおおむね六割ないし八割程度占める月刊「まなぶ」誌及び「月刊労働組合」誌の発行部数が昭和五三年を境に減部を重ねるようになったこと(前記第三の一1(一))、理事会が平成二年七月以降財政再建を標ぼうして事務局職員の賃金の減額、事務局職員の削減等を推し進めた(前記第三の一1(三)及び(四))ものの、月刊「まなぶ」誌及び「月刊労働組合」誌の発行部数は、債務者の活動を安定的に全国で取り組むために必要な発行部数を下回ったままさらに減部を重ねたのであり、債務者は平成一〇年度にこの発行部数の回復を目指して種々の取組を行ったものの、減部の傾向を逆転させることはできなかったこと(前記第三の一1(六))、そこで、理事会は事務局の体制を現実の発行部数による収入に見合ったものにすることを決め(前記第三の一1(六))、職員の定数と雇用形態について検討を重ねた結果、支局職員が在籍する支局については支局運営委員が常駐して日常の活動を行う支局又は常駐者がおらず支局運営委員によって日常の活動を行う支局に移行することを前提に支局職員については退職を勧奨することにし、支局職員を除く事務局職員については一〇名から七名に削減することを前提に削減する三名のうち二名については広告・発送業務の外注化に伴ってこれらの業務を担当する二名に退職を勧奨することによって削減することにし、残りの一名については身分を嘱託職員に変更することによって削減することにしたこと(前記第三の一1(七)ないし(一〇))、右の理事会の決定は平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会において満場一致で承認されたこと(前記第三の一1(一一))、債務者の平成一〇年度の資産は一億二三七五万三〇二四円であり、未払金等の負債四四一五万〇〇七七円を差し引いた当期未処分損益は七九六〇万二九四七円であるが、この中には不良債権化しつつある一三九四万九二七八円が含まれているから、処分可能な純資産は六五六五万三六六九円ということになるところ、債務者は、このうち配本してから代金が回収できるまでの間の売掛金四四〇〇万円余りを留保しておくとすると、常時運転資金として使えるのは二一〇〇万円余りであると考えていたこと(前記第三の一1(二一))、平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会は満場一致をもって会員から拠出された会費約二四〇〇万円を会員に返還しないことを決定したこと(前記第三の一1(二三))、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、債務者は現に倒産の危殆に瀕しているわけではないが、将来経営危機に陥る危険を避けるために今から経営体質の改善、強化を図る目的で支局職員七名と支局職員を除く事務局職員のうち広告と発送の業務を担当する二名、合計九名を余剰人員として削減することを決めたことを認めることができるのであって、また、支局職員七名と支局職員を除く事務局職員のうち広告と発送の業務を担当する二名、合計九名については債務者の置かれた現状に照らし他に配転する余地はなかったものというべきであり、そうであるとすると、債務者には余剰人員の削減の経営上の必要性があったものということができる。
これに対し、債務者は平成八年三月に当時の全職員約二〇名の約三分の二を占める役職者に対し一律一八万円の役職手当を支給したこと、債務者は平成七年度と平成九年度にそれぞれ一名の新規採用を行ったことは、前記第三の一1(五)で認定したとおりであり、平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会は満場一致をもって会員から拠出された会費約二四〇〇万円を会員に返還しないことを決定したことは、前記第三の一1(二三)のとおりであるが、これらの事実は右の認定を左右するものではない。また、債務者の平成一〇年度の当期純損益が一二五三万八一三四円であること(前記第三の一1(二四))からすれば、支局職員四名が退職勧奨に応じたことによって少なくとも平成一〇年度の当期純損益に相当する分の経費の支出を減らすことができたと考えられないでもないが、仮にそうであったとしても、債務者が置かれた状況に照らせば、それによって債務者が予定していた人員の削減を実施する必要がなくなるというものではないのであって、そうであるとすると、仮に右のように考えられたとしても、そのことは右の認定を左右するものではない。
また、債権者らは、債務者においては現に倒産の危殆に瀕している場合以外には人員削減の必要性は認められないと主張するもののようである。しかし、債務者は、一般の営利企業とは異なり、「労働運動の強化、ならびに勤労者大衆に科学的社会主義思想の教育とその普及をはかるために労働者教育事業を行うこと」を目的とするとはいえ、自己の責任おいてその経営上の論理に基づいて経営上の施策の実施の必要性の有無を判断することができることは、一般の企業とは異ならないものといえ、そうであるとすれば、その判断には広範な裁量権があるものというべきであって、現に倒産の危殆に瀕しているわけではないが、将来経営危機に陥る危険を避けるために今から経営体質の改善、強化を図る目的で人員を削減することはその裁量の範ちゅうに属することというべきである。したがって、債権者らの右の主張は採用できない。
以上のほか、債権者らは、種々の事情を挙げて債務者において人員の削減を実施する必要性はないと主張するが、いずれも採用できない。
(2) 余剰人員の削減を目的とした解雇においておよそ余剰人員の削減の経営上の必要性があると認められたとしても、余剰人員の削減の経営上の必要性に合理性が認められなければ、やはり当該解雇に合理性があるということはできないのであり、その場合には当該解雇は権利の濫用として無効であるというべきである。
そこで、余剰人員の削減を目的とした本件解雇において余剰人員の削減の経営上の必要性に合理性があると認められるかどうかについて判断する。
企業がある部門において発生した余剰人員を削減しようとする場合に、その余剰人員の削減における経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有するものであれば、余剰人員の削減を目的とする解雇は一応合理性を有するものと認められる。なぜなら、企業には経営の自由があり、経営に関する危険を最終的に負担するのは企業であるから、企業が自己の責任において企業経営上の論理に基づいて経営上の必要性の有無を判断するのは当然のことであり、また、その判断には広範な裁量権があるというべきだからである。
ところで、債権者らは、支局職員を退職又は解雇することは、月刊「まなぶ」誌や「月刊労働組合」誌の売上げに資するどころか、売上げの減少に拍車をかけかねない無謀な措置であるかのように主張し、疎明資料(甲八ないし一〇)及び審尋の全趣旨によれば、債務者がその活動を全国に展開するに当たってこれまで支局が果たしてきた役割は決して少なくないことがうかがわれるものの、そうであるからといって、月刊「まなぶ」誌や「月刊労働組合」誌の発行部数が減部を続けているという状況の下では支局の位置づけを変更する必要があるという考え方が明らかに失当であるということはできないのであって、支局に債務者の職員を配置することを取りやめることとした理事会の決定が平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会において満場一致で承認されたこと(前記第三の一1(一一))も併せ考えれば、債務者が支局に債務者の職員を配置することを取りやめることとしたことには経営上の観点から合理性があるものというべきである。
また、支局職員を除く事務局職員のうち広告と発送の業務を担当する二名については右の二名が担当する業務の外注化に伴って余剰人員となったというのであり、広告と発送の業務を外注化することとした理事会の決定が平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会において満場一致で承認されたこと(前記第三の一1(一一))も併せ考えれば、業務の外注化に伴ってその業務を担当していた事務局職員の人数分だけ余剰人員が発生したとしてその人数分だけ人員の削減の対象としたことには経営上の観点から合理性があるものというべきである。
(3) 本件解雇について就業規則二六条(4) に基づいて解雇権が発生しているといえるためには、解雇という手段に出ることが「止むを得ない」こと、すなわち、目的と手段ないし結果との間の均衡を失していないことが必要であることは、前記のとおりであるが、将来経営危機に陥る危険を避けるために今から経営体質の改善、強化を図っておくことは、当該経営体が生き延びることを目的としているのであるから、解雇に代わる次善の策を容易に想定し得るものでない限り、右の目的と解雇という手段の間の均衡を失しているとはいえないと解される。そして、本件において、前記認定の債務者の経営状況に照らせば、解雇に代わる次善の策を容易に想定し得るということはできないのであって、そうであるとすれば、本件解雇が目的と手段ないし結果との間の均衡を失しているということはできない。
(4) 以上によれば、余剰人員の削減を目的とした本件解雇が、人員削減の必要性という観点において、権利の濫用として無効であるということはできない。
(三) 解雇回避努力について
(1) 余剰人員の削減を目的とした本件解雇について就業規則二六条(4) に基づいて解雇権が発生しているとしても、債務者が希望退職の募集などの他の手段を採ることによって解雇を回避することができたにもかかわらず、直ちに整理解雇をした場合、あるいは、整理解雇を回避することが客観的に可能であるか否かは別として、整理解雇はいわば労働者側に出血を強いるものであることから、債務者としてもそれ相応の努力をするのが通例であるのに、何の努力もしないで突然整理解雇をした場合などに、諸般の事情を考慮すると、債務者は人員の削減のための解雇を回避するために十全の努力をしていないとして解雇権の行使が権利の濫用に当たるというべき場合があり得るものと解される。なぜなら、余剰人員の削減のために行う解雇は労働者側に解雇される帰責性がないにもかかわらず解雇によって失職するという不利益を被らせるものである以上、終身雇用を前提とする我が国の企業においては企業としてもそれ相応の努力をするのが通例であるのに、何の努力もしないで解雇することは、労働契約における信義則に反すると評価される場合があり得るところ、債務者は定年制を採用しており(前記第二の二5)、終身雇用を前提としているものと認められ、そうすると、本件解雇について解雇回避努力を尽くしていないと評価される場合が考えられないではないからである。
(2) そこで、債務者が解雇回避努力を尽くしたかどうかを判断するに、債務者は平成一一年三月に事務局職員を対象に希望退職を募集したものの、希望退職に応じた者は一人もいなかった(前記第三の一1(八))のであるが、希望退職において提示された一時金の金額からすれば、この希望退職に応じて事務局職員の中から希望退職者が現れることは期待し難かったというべきである。しかし、前記認定の債務者の経営状況からすれば、希望退職者が現れることが期待できるほど魅力的な条件を提示することは困難であったものと考えられ、そうであるとすれば、債務者が右のとおり希望退職を募ったことをもって債務者は一応解雇回避努力を尽くしたということができる。
(3) 以上によれば、余剰人員の削減を目的とした本件解雇が、解雇回避努力という観点において、権利の濫用として無効であるということはできない。
(四) 人選の合理性について
(1) 本件解雇は複数の事務局職員の中から債権者らという特定の者を被解雇者として選定するというものであるから、債権者らを被解雇者として選定したことが不合理であるならば、本件解雇はそれだけで権利の濫用として無効になるといわざるを得ない。
(2) そこで、被解雇者の選定の合理性という観点から、本件解雇に合理性があるかどうかについて判断する。
ア 支局職員については全員が人員削減の対象とされたのであるから、四国支局の職員である債権者Cを解雇の対象として選定したことには合理性がある。
これに対し、支局職員については勧奨退職後は支局職員としての平均人件費の二分の一相当額を交付するか、月五万円を限度に運営費として交付するものとされている(前記第三の一1(一〇)、(一二))ところ、疎明資料(甲八九)及び審尋の全趣旨によれば、債権者Cには右の取扱いがされていないのに対し、退職勧奨に応じて退職した支局職員四名のうち三名(関東支局、中国支局及び北信越支局に在籍していた支局職員)については右の取扱いがされていることが認められるが、債権者Cの本件解雇後の取扱いと三名の支局職員の勧奨退職後の取扱いに差異があるからといって、そのことから直ちに債務者が四国支局の職員であった債権者Cを解雇の対象として選定したことが不合理であるということはできない。
イ 支局職員を除く事務局職員のうち二名分が人員削減の対象とされたのはその二名の担当に係る広告と発送の業務を外注化することを決めたことに基づくことであるが、支局職員を除く事務局職員のうち二名分が人員削減の対象とされた経緯が右のとおりであるからといって、その業務を担当していた二名が当然に解雇の対象となるべきであるということはできない。しかるに、債務者の主張によれば、債務者は債権者A及び債権者Bが広告と発送の業務を担当していたことを理由に両名を解雇の対象として選定したというのであり、したがって、債権者A及び債権者Bを解雇の対象として選定したことには合理性があるとはいえない。
(3) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、債権者A及び債権者Bについてされた本件解雇は権利の濫用として無効であるというべきである。
これに対し、余剰人員の削減を目的として債権者Cについて行われた本件解雇が、人選の合理性という観点において、権利の濫用として無効であるということはできない。
(五) 解雇手続の妥当性について
余剰人員の削減のための解雇を行うに当たって企業が事前の説明、協議を尽くすことは望ましいと考えられるから、事前の説明や協議を尽くさなかったことが、諸般の事情を考慮すると、解雇に至る手続が信義に反するかどうかという観点から、解雇権の濫用という評価を基礎づける事情に当たるといえる場合があり得るものと解される。
本件においては、債務者と本件組合との間では事務局職員の削減という理事会の決定等について九回にわたり団体交渉を重ねたことは前記認定のとおりであり、団体交渉の経過は本件組合にとって満足すべきものではなかったことがうかがわれるが、事務局職員の削減という理事会の決定は平成一一年五月二二日に開かれた債務者の総会において満場一致で承認されたこと(前記第三の一1(一一))も併せ考えれば、団体交渉の経過が本件組合にとって満足すべきものではなく、したがって、仮に債務者において説明や協議を尽くさなかったと評価できる点があったとしても、そのことが本件解雇について解雇権の濫用という評価を基礎づける事情に当たるということはできない。
以上によれば、余剰人員の削減を目的とした本件解雇が、解雇手続の妥当性という観点において、権利の濫用として無効であるということはできない。
(六) 以上によれば、余剰人員の削減を目的として債権者Cについて行われた本件解雇が権利の濫用として無効であるということはできないが、余剰人員の削減を目的として債権者A及び債権者Bについて行われた本件解雇は権利の濫用として無効であるというべきである。
3 以上によれば、債権者Cについてされた本件解雇は解雇権の濫用として無効であるということはできないが、債権者A及び債権者Bについてされた本件解雇は解雇権の濫用として無効であるというべきである。
したがって、債権者Aと債務者の間の雇用契約及び債権者Bと債務者の間の雇用契約は、いずれもなお有効に存続しているというべきところ、本件解雇直前の債権者Aの一か月当たりの平均賃金は毎月二五日限り金二三万三〇四八円であり、本件解雇直前の債権者Bの一か月当たりの平均賃金は毎月二五日限り金二三万一〇〇〇円である(前記第二の二6)から、債権者Aは一か月当たり金二三万三〇四八円の限度で、債権者Bは一か月当たり金二三万一〇〇〇円の限度で、それぞれ被保全権利を有することを認めることができる。
二 保全の必要性について
1 賃金仮払いの仮処分は、仮の地位を定める仮処分の一種であるから、「争いがある権利関係について債権者に著しい損害又は急迫の危険を避けるためにこれを必要とする」(民事保全法二三条二項)ことを要件とし、債権者の生活の困窮を避けるために暫定的に発せられるものである。
2 そこで、債権者A及び債権者Bの生活の困窮の有無について検討するに、本件記録上認められる債権者A及び債権者Bの生活状況、債権者A及び債権者Bの年齢などの事実を総合考慮すると、本件においては平成一二年五月以降毎月二五日限り金二三万円についてその必要性が認められる。
そして、時間の経過によって救済を要する状態は変動を免れないのであるから、仮払いの期間は一年を限度として認めるのが相当である。
3 なお、債権者A及び債権者Bは、債務者に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの仮の確認も併せて申し立てているが、他に特段の主張及び疎明のない本件においては、右の地位保全の仮の確認の申立てを認める必要性を認めることはできない。
第四結論
本件申立ては、債権者A及び債権者Bについて債務者に対して平成一二年五月から平成一三年四月まで毎月二五日限り金二三万円の仮払いをさせる限度において理由があると認められ、事案の性質上、債権者A及び債権者Bに担保を立てさせずに主文のとおり決定する。
(裁判官 鈴木正紀)